射手座の魂

はばかりながら はばかる 虚言・妄言・独り言を少々たしなみます

「岡崎に捧ぐ」に捧ぐ

漫画「岡崎に捧ぐ」の五巻を読み終わった。

以前、作者の山本さほは、世田谷区職員との仕事上のやり取りを漫画にし区長が謝罪するという騒動で話題となってしまった。どこにでもその区職員のようにおかしな人はいるが、その漫画を見るかぎり、区職員は「フリーランスの漫画家」という存在をバカにしている。あと漫画に関するイベントなのに「漫画」もバカにしている。本来はフリーランスも仕事をする際はきちんと文書で契約書を交わすなりして「口約束」で仕事を請けてはいけない。ただそうすると嫌がられて仕事がなくなるのである。この騒動はよくあることだ。やなせたかしに、あちこちの役所がノーギャラで宣伝キャラクターを作らせていた件と通じるものがある。しかし立場上黙ってしまう人が多いなかで山本さほはよく言ってくれたと思う。

 

さて「岡崎に捧ぐ」である。山本さほ本人とその親友岡崎さんの20年に渡る友情の物語。漫画を描くこととゲームが好きな「山本さん」とちょっと変な「岡崎さん」と個性豊かな友人たちが登場し、それぞれが子どもから大人に成長してゆく。

バカなことばかりやっている小中学生時代、ちょっとひねくれる高校生時代、大学受験に失敗し迷走する時代、きちんと仕事に取り組む社会人時代。そのあいだずっと「岡崎さん」と友人であり続ける。

僕は登場人物たちより10歳程度年上だが、懐かしく読める。登場するゲームとか、たまごっちとか、携帯電話で着メロつくったりとか、すでに社会人だった僕も小学生と同じことに関心があったのだ。90年代は子ども向けと大人向け、サブカルチャーとメインカルチャーが交じり合いはじめた時代だったのかもしれない。

そして画がうまい。人物がデフォルメされているのでテキトーに見えるかもしれないが、扉ページの遠近感を生かした手書きの町の風景などはすごい。各巻の表紙画も素敵だ。笑いの要素もいっぱい入っていてたのしい。岡崎家のワインの樽のエピソードは腹を抱えて笑った。

 

「山本さん」は漫画が上手く面白いことばかりやっているクラスの人気者で、すこしどんくさい「岡崎さん」にとってはカッコいいヒーローであった。

しかし美大受験に失敗し、少々「やさぐれる」。フリーターとして勤める職場はブラック企業ばかりで、果てはネトゲ廃人となったり。

「岡崎さん」と一時期疎遠になるが、再び再会し昔のように友情を取り戻す。本当の友達は離れられない運命なんだろうと思う。理由なんかない。

そして「山本さん」はとうの昔ににあきらめていた漫画家になるという夢を再び追いかけ始め、ネットに漫画をアップし始める。それがこの作品「岡崎に捧ぐ」になる。

再び「山本さん」は「岡崎さん」にとってのヒーローになったのだ。最終巻のラストは感動しました。

 

最後に言いたいことがある。最終巻が発売されて本屋に行ったのだが置いてなかった。大きい本屋でも新刊コーナーにはなかった。

センスねえな本屋。