ETV特集「夫婦別姓“結婚”できないふたりの取材日記」を観た。
映像制作の仕事をしている男性が女性と結婚するにあたり、女性側が男性の姓を名乗ることを拒否しそれが原因で結婚できない。その2人の苦闘を追ったドキュメンタリーである。
まず冒頭、自宅とおぼしき場所で男性に肩車され奇声を上げ自撮りをする女性の姿から始まる。その後女性が男性の髪を切ってあげるシーンが続くのだが、そこで男性が「俺より先に寝てはいけない~」とさだまさしの関白宣言の一節を口ずさむのだが、女性はそれに反応し、「なんでやねん」と真顔で返す。顔が怖い。
男性は映像制作を仕事としているので、自ら演出しカメラを回しているという趣向。
男性は女性のために姓を変えたいと反対する両親を説得しに行くのだが、それも自分でカメラを回している。休日なのかだらしない格好をしているお父さんの古臭い価値観を振りかざす家長っぷりがあますところなくカメラに写される。こりゃプロの仕事だ。
この番組が反響をよんだのは、後半の亀井静香氏の出演。ふたりは夫婦別姓を求める活動をしている人たちと歩調を合わせるようになるのだが、その縁で「保守派」の亀井静香氏と面会するのである。まったくどんな人選だよ。そこで亀井静香氏は天皇制まで持ち出し激しく夫婦別姓に反対するのである。
このシーンが夫婦別姓に反対しているのは古臭い保守派であるという印象をつけることに成功している。亀井静香氏だって映像が使用されるドキュメンタリー番組の趣旨くらいは説明されているだろうから、分かってやっているのだろう。
この番組の見所は、亀井静香氏の「古臭く傲慢な老害」っぷりではない。女性の「やや我侭に思える考えを許容しない社会の不寛容さ」でもない。男性が「薄毛がどんどん進行し髪型が珍妙になってゆく」ことでもない。そういったドキュメンタリー風の演出ではないのだ。
最大の見所は出演していた1人の子供の意見である。
2人は、夫婦同姓であることに疑問を感じペーパー離婚をした活動家夫婦に話を聞きに行く。事実婚となった夫婦には子供がおりそこに同席していた。子供は父親の姓を名乗っており母親と違う姓である。以下の書き起こしは概要ですが趣旨はあっております。
「少数派の選択肢をしたことで子供はいやな思いをしていないか」
という問いに父親は
「事実婚という選択をしたことを子供が理解してくれたとすれば、彼女自身が学ぶことも大きいと思う」
と返した。そして
「軋轢があったとしても多様性や寛容性を学べることはいいことだ」
という趣旨で結論付けようとする。すると子供が堰を切ったように話し出す。
「それを決めるのは子供だと思う。(父親は)そういうことを体験していないのに勝手に言われちゃうのは変な感じ」
と強烈なボディーブローを決めた。
この子は学校で親の姓が違うことを他の子から言われることにいやな思いをしているのだ。自分の子供を他人行儀に「彼女」と呼称する父親への不満をカメラの前で堂々と述べたのある。あっぱれあげます。カメラはそこで止まる。止めるなよ。それに対する父親の意見が聞きたかったのに!
夫婦別姓には部分的には賛成なのだが、気になるのはここなのである。
子供の意見を無視し親の都合で振り回す。これでは単なるワガママで強権的な昭和の親とかわらない。表面的に穏やかなぶんだけ始末が悪い。
多様性や寛容だのを錦の御旗にし、イデオロギーを押し付けて、自分の子供の気持ちさえ置き去りにしているじゃないか。だいたい自分の子供も「洗脳」…じゃかなった「説得」できないのに世の中を動かせるのか?
まず子供の意見を聞くことから始めなさいな。