月に一度くらいラーメンを食べに天下一品に行く。選択するのはもちろん「こってり」である。あのポタージュのようなドロリとした粉っぽいスープが好きなのである。しかし「こってり」と言う割にはそんなに油っぽくないし、なんとも不思議な味である。
死ぬ前に何を食べたいかという陳腐な問いに「天下一品のこってり」と答えたのが離婚の原因のひとつであったかもしれないと今になって思う。
人生を狂わせるあの味には秘密があるに違いない。きっとなんか入ってる。きっとなんかヤバイ粉が入っている。だから人は天下一品に行くのだ。
先日、献血の帰りに天下一品に行った。ちなみに献血は僕の唯一の趣味である。
献血で400mlの血を抜いた後の天下一品は格別である。血液が不足している体にこってりした謎スープを注ぎ込む。不足した血液の代わりにこってりスープが血管に入り込み人体という小宇宙を駆け巡る様を想像し、これでは血液ドロドロじゃんとほくそ笑む。なんと背徳的な食物であるか。
というわけで天下一品のラーメンが好きなのである。
本題に戻る。ラーメンを注文するとき値段に驚いた。こってりラーメン(大)で¥1070なのである。前食べたときは¥1000を超えていなかった記憶がある。調べてみると天下一品は大幅な値上げをしているという。一年前は同じものが¥890だったので、¥180の値上げである。プーチンのせいか?円安のせいか?秋だからか?
ただ世界的にみれば大きな値上げではない。
NYではラーメンが日本円で¥2000するといわれたのはだいぶ前である。そのころは、アメリカでは物価も上がっているが賃金も上がっていて、現地では市民が値上げを受け入れており成長している。物価も賃金も安いままの日本はダメダメだという論調であった。
しかし最近ではNYではラーメンは¥2500となり、さらなる物価高となっている。初めからアメリカの動きは「成長ではなくタダのインフレでしょ」と思っていたのだが、少なくとも現在は重篤なインフレ状態であると言える。
NYのボブは元気でやっているだろうか。スミスやキャサリンも。想像上のニューヨーカーに思いを寄せつつ、¥1070のラーメンをすする。海外に比すれば小額とはいえ、値上げを断行した天下一品のラーメンはNYの味がした。いやしない。