射手座の魂

はばかりながら はばかる 虚言・妄言・独り言を少々たしなみます

「ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ」の感想 

いしいひさいちといえば、「がんばれタブチくん」や「となりの山田くん」「ののちゃん」などで知られる四コマ漫画家である。思想哲学や戦争や政治、時事問題や推理小説など多様なテーマを扱い、その作風は縦横無尽。すさまじく多作な漫画家として知られる。

だいぶ前に「現代思想の遭難者たち」を読んだ。いしいひさいちは様々な現代思想を理解した上で思想家や哲学者をデフォルメしギャグ化しているのだが、ネタが高度すぎてよく分からん。でも面白い。哲学や思想への入門書にもなっている。

なんにせよ不可解で稀有な才能を持つ漫画家であると思っている。インテリの高畑勲が映像化するわけで。

その巨匠いしいひさいちの自費出版本「ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ」を購入し、読了。

もともと朝日新聞に連載している「ののちゃん」に登場する脇役キャラだった吉川ロカを主人公にすえた、四コマを基調とした中篇漫画である。

バカだがめっぽう歌が上手い女子高生吉川ロカが、友人である柴島美乃や地元(岡山?)の人々の助けを得てファド歌手を目指し、ストリートから音楽活動をはじめる。
そしてデビューに至り、アルバムを出し、ついに高名な賞にノミネートされるまでのシンデレラストーリー。いしいひさいち曰く「都合のいいお話」である。

四コマ漫画でも厚みのあるストーリーが描けるというのは業田良家「自虐の詩」で証明されている。「ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ」もストーリー漫画として読ませるのだが、いしいひさいちの軽妙で気負わないセンスは崩れることはなく、ギャグもあちこちに。そして最後のページはガツンとくる。ラストシーンは余計な説明を省き、吉川ロカと柴島美乃のその後を読者の想像にゆだねる。なんとも潔いなあ。

それにしても画が上手いと思う。ちょっとしたスカートのしわや構図がなんかが素晴らしい。

最近の漫画界は作画至上主義にともない「書き込みインフレ状態」となっており、その観点からすれば下書きのままと言われかねない画であるが、何の不足もないと思う。

この「ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ」。この巨匠いしいひさいちの新たなチャレンジは同業の漫画家からの評価が高い。なんか分かる。

そしてコロナ過で不遇の時代を過ごしている(と思っている)若い人にこそ、この希望の物語はお勧めである。いししひさいちカッコいいぞ。