平沢進のライブを鑑賞した。
新型コロナの感染防止のため無観客での配信となり、価格は3300円であった。
もともと平沢進はiTunes登場前に独自にmp3での音楽配信を始め、インターネットと連動したインタラクティブライブを行うなど先進的な取り組みが評価されてきた音楽家である。一部に熱狂的なファンがおりキャリアも長い。しかし一般的には知られていない。
80年代の邦楽を中心に、浅くはあるが幅広く音楽を聞いてきたと、ささやかな自負をもっていた僕でも、平沢の存在をしったのは5年くらい前である。
なせ知られていないかというと大手のレコード会社と契約せず、JASRACと距離を保っているアウトサイダーだからである。
かつて自分の曲をリメイクしアルバムに再収録するためにJASRACに使用料を払わなければならないことに疑問を感じ、それをきっかけにJASRACとの契約を見直したという。大手のレコード会社に所属していると、アルバムのレコーディングを終えると契約書を交わす。その契約書は音楽出版社やJASRACとの包括契約となっているのだ。ミュージシャンに選択の余地はない。レコーディングの費用やプロモーション、コンサートのブッキングなどレコード会社に依存しているからである。
JASRACと契約したくないのなら大手のレコード会社からも出なければならないのである。
当時平沢進はP-MODELというバンドをやっており大手レコード会社からの脱退、そして独自の音楽配信の開始をするにあたり記者会見を開いたのだが、大手や音楽関係のメディアは来ず、来たのはパソコン関係のメディアだけだったという。JASRACの圧力があったのではないかと思う。
そして平沢は昨年のフジロックに参加しセンセーションを巻き起こす。大手メディアは見事にスルーしたがネットを中心に注目された。ややマンネリ化したロックミュージックより、平沢のマッドサイエンティストのようなパフォーマンスのほうが、ロックっぽい反骨心が感じられて面白かった。
さて肝心のライブであるが、昨年からのツアーを踏襲したスタイルであった。テスラコイル、レーザーハープ、両脇にバーコード頭の会人など。普通に考えると頭おかしいのであるが、慣れてしまってなんとも思わない僕も頭おかしい。
そこに無観客ならではの演出も組み込んでいた。客席で鑑賞している平沢と会人の2人の映像がライブ中に唐突に差し込まれるのである。
最後の曲「QUIT」が終わるといったん平沢は引っ込み暗転。明転するとチェーンソーを手にしている!「現象の花の秘密」に合わせて後方の舞台セットの幕をチェーンソーで切り裂き始める平沢。何をしているのか。曲が終わると平沢と会人が舞台前にそろっておじきする。
すると無人の客席にプロジェクターで歓声をあげる大観衆が現れ、あろうことか平沢と会人は客席に降りて映像の観客と触れ合ってそのまま退場していくのである。
何が起きたのか分からずポカンとしてしまった。普段平沢は客席におりてファンサービスなんて絶対しない男である。
ライブのタイトルは「GHOST VENUE」で「亡霊の会場」という意味になる。
舞台上で演奏していた平沢と会人は亡霊で、最後に切り裂いた幕から召喚した観客も亡霊で、実態のある本物は客席で鑑賞していた平沢と会人のみ。通信回線の向こうにいるファンの思いは亡霊となりライブに参加したのである。その亡霊同士が最後に客席で触れ合う「濃厚接触」をするという皮肉。
コロナによる無観客配信だからこそ込められるメッセージ性。通常ライブの代替行為としての無観客配信ではない。ずっと前から信じられないくらいの先進性のあった平沢進にとってはたいしたことではなく、予定されていた未来なのかもしれない。
さて画面の表示を見ると7万5千人が視聴していた。アーカイブでも鑑賞できるので、ライブ視聴しなかった人も入れると八万人くらいがチケットを購入したのはないか。単純計算すると通常のライブより売り上げが高いはずだ。
配信ライブは通常ライブの代替行為ではなく、主流となり得るかもしれない。
これからコロナと共存していくあろう音楽ライブはこれからどうすべきなのかを見事に示した平沢進のライブであった。