射手座の魂

はばかりながら はばかる 虚言・妄言・独り言を少々たしなみます

個人的な感想「君たちはどう生きるか」

スタジオジブリの新作、宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」の感想を書く。事前に情報公開されたのはタイトルと異形の鳥のようなビジュアルのみ。

宣伝がなかったので先入観なく見られたのは良かった。いつも公開前に鈴木敏夫氏が宣伝目的で露出しまくり、そして時にミスリードするのがうっとおしかったので。

「風立ちぬ」のときも制作半ばの時期に「ついに宮崎駿が零戦をテーマに映画を作る」「宮崎駿が戦争を描く」と宣伝しまくった。蓋を開けてみれば、主要テーマは「美しいものに魅せられ大事なものを顧ない男の話」であり、零戦や戦争は副次的なテーマであった。主人公は箱庭的な自分の世界に生き、戦争に関わっているという現実もどこか希薄である。零戦の設計者である堀越二郎をモデルにしているのだが、作中の主人公はあまりにも浮世離れしている。鑑賞したとき事前の宣伝のせいで戸惑ったことを覚えている。

以下「君たちはどう生きるか」の個人的感想を述べさせてもらいます。多少のネタバレあり。

 

 

戦時下の日本。主人公の眞人は母親を空襲で失い父親と疎開する。疎開先の屋敷には父親の再婚相手(母親の妹)である夏子がおり、すでに妊娠していた。母親を失ったショックや環境の変化、父親の再婚相手への複雑な思い。学校にもなじめず自らの頭を石で傷つけたりする。そして森の中に消えた夏子を探しに異世界を大冒険することになるのだが、相棒になるのが公開されたビジュアルのアオサギ。しかしアオサギの中身はハゲおやじであるという詐欺的な展開となる。サギだけに。

ストーリーは村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」に似ていると思った。

とにかくその異世界冒険譚が圧倒的である。過去のジブリ作品のオマージュも見て取れ既視感はありまくりなのだが、それがどうしたと言わんばかりの熱量である。

怒涛の映像に対し足りない想像力を駆使して話を追おうと見ていたが途中であきらめて、ただただ何も考えず見るだけとなった。伏線回収とか緻密な設定とか説明台詞など要らぬし観客を振り落としてナンボというストロングスタイルである。

おそらく異世界は眞人の内面世界であるのだからリアルであるはずもなく、整合性もなくていい。実際は論理的に作られているのかもしれないが。

「君たちはどう生きるか」は制作委員会方式を取っていないので、マーケティングや内容への制約や注文が少ないのかもしれない。

そのおかげで宮崎駿とアニメーターたちがリミッターを解除してやりたいことをやっているという感じがする。トラウマを抱えた少年の成長という表層的なテーマとしてはありふれているし、万人に受ける作品ではない。この先テレビ放送されても視聴者はほとんどはポカーンであろう。

物語の終盤、異世界を守ろうとする「大叔父」はおそらく死に、その象徴である塔が崩壊するのだが、それは「宮崎駿のジブリ」の終わりも意味しているのだろう。スタジオジブリやそのファンは宮崎駿無き後「どう生きるか」、それも問いかけているのだと思うのである。

あと棒読みする声優はおりません。眞人のエキセントリックな父親を演じている木村拓哉も悪くないです。そして恐るべしは菅田将暉。