ゼンマイ仕掛けの機械式時計が好きである。
さすがに手巻きは面倒くさいので、自動巻きがいい。
自動巻きの腕時計は使わずに放っておくと止まってしまう。そこがいいのだ。
電池式のクオーツやソーラー時計は主が死んでも動き続ける。それはなんだかいやなのである。主が止まったら時計も休みなさい。
背広を着るような仕事についたことはなくファッションにも興味はなかったので、個性を出すのは腕時計しかなかった。若い頃は腕時計マニアで、時計店に通っては美しい時計を眺めるのが好きだった。しかし高価な時計は買えない。
ある時計店で一目ぼれして購入したのがセイコーのアルピニストである。
登山家という名前を持つその時計は、遊び心があり、シンプルで主張しすぎない良いデザインで、しかも値段は3万円程度と機械式としては安価であった。
購入したのが1997年だったのでもう20年以上使っている。しかし1回もメンテナンスしていない。ごめんよ。しかし世界のSEIKOである。ちゃんと動く。
機械式の宿命として正確ではない。1日1分は狂う。しょっちゅう時間調整が必要で面倒であるが、悪くはない。
時間調整のため龍頭を引くと秒針も止まる。これは「ハック機能」といって、第1次大戦のころ実用化されたものである。ダイナマイトなど大量破壊兵器の登場と使用により秒単位の行動が軍隊で必須となったのだ。
それ以前は秒まで気にしていなかったのだ。そんなものである。少々時間が狂っていたっていいじゃないか。兵隊じゃあるまいし。
時間を知りたいだけなら電波時計やスマホでいい。機械式時計は「時間と付き合う」ためのものである。