射手座のひとりごと

はばかりながら はばかる 虚言・妄言・独り言を少々たしなみます

演劇業界とインボイス制度

コロナ禍に苦しめられ、やっと落ち着き始めたかと思ったらインボイス制度が追い討ちをかける。演劇業界とりわけ小劇場界隈からは政治に対する恨み節が溢れているのだが、イマイチ盛り上がっていないように思う。

マスコミがほとんど報道しないことが理由のひとつである。すでにフリーランスとの契約をやめている大手メディアはインボイス制度への備えは済んでいる。もう関係ないので大きくニュースとして取り上げない。制度が実施されたのち影響が出てきたら、政権批判や選挙と絡めて報道するだろうけど。

もう一つの理由は、実際に演劇業界でインボイス制度により直接不利益を被る人は少ないからということ。

劇団に所属し俳優活動をしている役者の殆どがギャラなんてもらっていない。それどころか業界ではスタンダードな「チケットノルマ制」により、持ち出しで活動しているのである。

公演にキャスティングされた時点でチケットノルマが課され、チケットが¥3000であれば¥3000×30枚といった具合。公演前に¥90000を劇団に納めるのだ。キャストが10名いればざっと¥900000になり、劇場費や稽古場代、大道具の製作費や音響照明など外部業者の支払いに充てられる。

ノルマを課された俳優は友達や家族親戚などを頼ってチケットを売るわけだが、なかなか全てが売れるわけでもない。チケットを捌くために格安でばら撒いたりもする。

ノルマを超えて販売できれば1枚いくらでキックバックがあるがまず無理である。大体が赤字となる。

舞台俳優の8割程度は収入なんてないし、ましてや「事業者」ではない。インボイス制度は多くの俳優には直接には関係ないといえる。

実際困っているのは演劇で飯が食えている残り2割以下の人々で、それは主催者や演出家や音響照明などの技術スタッフである。彼らの収入の原資は役者がチケットノルマとして払う金である。

つまり演劇界を資金面で支えているのは一般客ではなく内輪の俳優たちなのだが、この業界はこの恩人たちに敬意を払うことはない。

アルバイトをして金を貯め献金している彼らは稽古場で演出家にケチョンケチョンに怒られ貶され人格を否定されハラスメント地獄に晒される。性的暴力の対象にだってなる。外から見ればまるでSMクラブかカルト教団ではないか。

業界とか事業者とかいう以前の話で、フリーランスでもなく単なるフリーターである。大手の劇団でも俳優で食えているのは一握り。なるほど曖昧な「演劇人」という名称は大変都合がいいわけだ。

インボイスの影響を受ける演劇人はごく少数で、そのヒエラルキーの上に位置している。政治にケチつけるのもいいが、演劇業界のこの特異な文化をなんとかした方がいいだろう。

一番守られるべきは演劇業界を支えている大勢の無名の俳優たちで、大御所といわれる演劇人や演劇ジャーナリストという名の太鼓持ちらはこの歪な構造に徹頭徹尾ダンマリなのである。